就業規則は労働者と企業との合意により成立する労働契約の内容たる労働条件を集団的に設定したものです。労働条件は、労働者と企業との合意により変更することができます。そのため、企業が一方的に労働者に不利益な内容に就業規則を変更しても、労働者に効力が及ばないのが原則です(労働契約法第9条)。
もっとも、労働契約法第10条本文においては、「変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによる」と定めています。
すなわち、就業規則の不利益変更は原則として許されず、変更の合理性があり、それが労働者に対して周知されている時には労働者に対する拘束力を持つとされています。
就業規則の変更に合理性があるかどうかは、以下の基準に照らし判断されることになります。
- 労働者が受ける不利益の程度
- 労働条件の変更の必要性
- 変更後の就業規則の内容の相当性
- 労働組合等との協議の状況
- その他の就業規則の変更に係る事情
例えば、労働条件を変更する業務上の必要性が低いのに、労働者が受ける不利益の程度が大きかったり、合理的な理由もなく特定の層だけが不利益を受ける程度が大きかったりする場合は、認められにくいでしょう。
結局は、企業の変更の必要性と労働者が受ける不利益の比較衡量ないし相関関係により変更の合理性は判断されます。賃金、退職金など労働者にとって重要な権利や労働条件に関する就業規則の作成又は変更は、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた相当な内容である必要があります。
このように、労使の合意のない就業規則の不利益変更の効力は、労使の利益衡量を中心とした判断になるため、予見可能性に乏しい側面があることは否めません。そのため、就業規則の不利益変更を検討するにあたっては、できる限り労働者から個別の同意を取り付けるように対処するのが望ましいでしょう。
なお、変更が決定され周知された就業規則については、これに同意しない労働者も拘束されることとなります。個人的に納得ができないと主張している労働者に対しては、拘束力があるということを十分に説明し、納得してもらうようにしましょう。
また、プラッサ法律事務所(旧:中村・安藤法律事務所)は就業規則の作成や変更も行っておりますので、お気軽にご相談下さい。