在職中に競合他社で働く、自ら競業する事業を行うという行為は、労働者は、労働契約の存続中は、一般的には、使用者の利益に著しく反する競業行為を差し控える義務があるから、就業規則等に根拠規定がある場合には、懲戒事由になると共に、同時に、退職金不支給とすることも可能と解されています。
退職後の競業会社への就職や起業については、また、別の考察が必要となります。
退職後については、労働者には職業選択の自由があるので、就業規則等に「同業他社に就職(起業を含む。)しない。就職した場合には会社は退職金を支給しないことが出来る。一旦支給し田場合でも返還を求めることが出来る。」という明示の規程がなければ、退職金を不支給(減額)することはできないものと考えられます。
もっとも、競業会社に就職(起業)したとしても、常にこの規定が有効に発動される訳ではないので注意が必要でしょう。裁判所においては以下の点を総合考慮しています。
①当該競業行為の内容(在職中の地位等を背景にして、そのノウハウや人脈をフルに活用するのか、或いは、そこまでではないのか)、
②退職時の地位、役職、報酬額、専門性(ヒラ社員であり、専門性が低い労働者であれば不支給にはならない方向でしょう。)、
③競業行為が制限される期間や場所的範囲限定されているか(東京に本社があり関東を商圏とする会社の従業員が、鹿児島や北海道の会社に就職したとしても、一般には従前の会社にとっては大きな問題にはならないでしょうから、退職金は支給されるべきという方向に行きます。)、
④退職後の競業行為を禁止することに対する代償的な措置がとられているか等が挙げられます。
この規定の有効性については、一般論としては、最近の裁判例は、労働者反故の観点から制限の期間、範囲を必要最小限にとどめることや、一定の代償措置を求める等、厳しい態度をとる傾向にあると指摘されています。
ですから会社側としては、この様な規定を明示しておくこと共に、必ずしも当然に有効に発動できるわけではないことを留意しておく必要があるでしょう。